銀の匙

23 8月

・中勘助「銀の匙」

・荒川弘「銀の匙」小学館

 

・中勘助「銀の匙」

 前編は、少年になるまで、後編は少年が青年になろうとするまでの自叙伝である。

 大人になると忘れてしまいがちな幼少・少年の頃の心の機微を、軽快で簡潔な文章で表現している。

 強く心を揺さぶろうと感情過多になることなく、むしろ淡々と描いているからこそ心理描写が心に突き刺さってくる。

 明治時代の話であるのに、現代の私が心を揺さぶれるのは、変ることのない少年の心を、ありのまま描いている証左であると思う。

 ちなみにタイトルは、子ども(著者)の口に薬を含ませるために用いたものが銀の匙だったことからつけられた。

 (銀の匙は、本書の最初の2ページにしかでてこない。しかし、物語を象るものである。是非とも本書を読んで欲しい。)

 

・荒川弘「銀の匙」小学館

 「鋼の錬金術師」の作者の次回作が本書である。

 本書は、札幌(都会)から帯広(田舎)の農業高校に進学した、夢も無く受験競争から挫折した高校生が主人公の物語。

 「ペットはペットではなく家族である」という考えを否定する気持ちは無いが、愛玩動物至上主義の現代において、経済動物に対する考え方、つまり生命に真摯に向き合う姿勢を知って欲しいという気持ちから読んで欲しい本だ。

 農業高校での生活や考え方に私は、「あ~そうそう、そうなんだよよく分かる」と懐かしさがこみあげてきて、しんみりと楽しく読ませてもらっている。

 (牧場などで働いていたので、私は。)

 主人公が経済動物と向き合う中で、少年になり、青年になろうとする過程をエンターテインメントとして描いている画力はさすがの一言だ。

 春夏秋冬にタイトルを分けているのは、中勘助の著作を読むと推測できる。

 春は、「銀の匙」を必要とするとき、夏は、「銀の匙」を卒業し少年になろうとするとき。

 秋は少年としてのはつらつさを発揮するとき、冬は現実という冷たい壁に真正面から向き合うときだろう。

 大人も子どもも誰もが笑って楽しめ、そして考えさせることのできる本書を、一人でも多くの人に読んでもらいたい。

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