誰も望まない不思議な資格、企業財務会計士

23 1月

 失敗を認めず隠すために行うことは、だれも幸せにしない。

 

 「企業財務会計士」という新しい資格を創設する公認会計士試験の新しい制度を金融庁が公表した。(資料1)

 これは公認会計士(論文)試験合格者を増やした結果(資料2)、就職浪人が増加したことを問題視し(資料3)改正されたものである。

 今回の改正は、改悪と呼ぶべきものであり、それは中間報告に対する意見(資料4)で適切に述べられているので改めて私は述べない。

 私がなによりも問題だと考えるのは、何のための公認会計士であるのかという本質的な問題を置き去りにしている点だ。

 

 ・国民経済の健全な発展に寄与するために公認会計士制度があるのであり、公認会計士の雇用・労働環境、ましてや金融庁の役人のためではない。

 ・公認会計士受験生は、雇用・ステータスなど様々な動機があるが、「挑戦」しているのである。この「挑戦」なくして公認会計士の質は保たれない。

 

 「社会的に必要な能力を定め、それを満たすものをすべて合格者とし、合格者のその後の就職などは労働環境に任せる」のがあるべき国家資格であって、就職できるために合格者数を操作するのは本末転倒である。

 また、弁護士にしろ公認会計士にしろ受験生は皆、最難関に「挑戦」しているのである。

 制度が複雑化し試験合格が資格取得にならず経過的な資格(企業財務会計士)が増えれば、そもそも何の勉強をしているのか、自分が何を目指しているのかを不明確にし、「挑戦」に対する意欲を大きく減退させる。

 公認会計士の質は、「挑戦」する人たちの競走によって支えられており、公認会計士が大企業の経理に就職できる一部のエリートのための資格になれば、競争が失われ、「挑戦」の対象ではなくなり、公認会計士の質が大きく低下することになる。

 社会人の合格者を増やすのではなく、社会の大企業の経理に就職した人たちの合格者を増やすことを僅かに期待ができるかもしれないが、それ以上に大学生の公認会計士を目指す意欲を失わせることになる。


資料中の下線、太字はすべて私が加えました。

また、すべて資料は抜粋であり、全文は金融庁のHPで確認できます。

 

資料1

公認会計士試験・資格制度の見直し案の概要

(1)「企業財務会計士」の創設

○ 業務内容

①財務書類の調製、財務に関する調査・立案・相談

②監査業務の補助

○ 資格要件:論文式試験の合格及び一定の実務・教育経験2年以上

(注)一定の実務・教育経験には、公認会計士の資格要件として認められる実務経験のほか、以下を含むこととする。

① 例えば、資本金1億円以上の企業等における会計実務

② 一定の会計専門職大学院の修了

○ 登録:日本公認会計士協会が登録を実施

○ 義務:継続的専門研修(CPE)、信用失墜行為の禁止、守秘義務 等

○ 責任:登録抹消、業務停止等

(2)公認会計士に関する見直し

○ 資格要件の追加・変更

・大学等高等教育機関での一定の科目履修を資格要件に追加する。

(注)公認会計士試験合格と大学等高等教育機関での一定の科目履修により、大学卒業相当の知識を確保。

・実務経験の要経験年数を2年以上から3年以上に変更する。

・実務経験となる業務に、例えば、(資本金5億円未満の)上場企業等における会計実務を追加する。

・一定の会計専門職大学院の修了者は、その修業年限の2分の1(1年を上限)を実務経験年数に算入できることとする。

・実務補習の見直し(監査・税実務の重点化、e-ラーニングの拡大等)について検討する。

○ 継続的専門研修(CPE)の履修義務科目の明確化

○ 協会による登録抹消の事由に、公認会計士等が一定期間所在不明である場合を追加

 

資料2

現行制度での合格者の推移

平成18年1,372人

平成19年2,695人

平成20年3,024人

平成21年1,916人

平成22年1,923人

 

資料3

「公認会計士制度に関する懇談会」中間報告書

(1)問題点

現状においては、論文式試験合格者の半数以上は、無職で受験勉強に専念した者(「受験浪人」、以下同じ)であり、結果的に、合格者の平均年齢は26~27歳と高くなっている。社会人の合格者は十分に増加しておらず、合格者の経済界等への就職が進んでいない。また、経営環境の悪化から監査業界の採用数も大きく減少している。これらにより、「論文式試験に合格しても公認会計士になるために必要な実務経験を満たすことができず、公認会計士の資格を取得することができない者」(「待機合格者」、以下同じ)が多数生じている。

公認会計士となるための資格を取得するためには、短答式と論文式の試験合格に加え、監査又は会計に関する実務経験を満たすこと等の要件が必要とされている。

こうした結果、以下のような問題が生じている。

① 合格者という有為な人材が活用されないという意味での社会的損失が生じているのではないか。

② 経済社会の幅広い分野で活躍する監査と会計の専門家を確保していくという制度の狙いを実現できていないのではないか。

③ 試験・資格制度の魅力が低下するのではないか。

(2)検討

待機合格者ができるだけ出ないようにするためには、合格者数が適正な規模となることが重要である。このため、新たな制度の下での合格者数については、合格者の意識や活動領域の拡大の状況、監査業界・経済界等の今後の採用動向や採用慣行等を踏まえ、新制度の趣旨を踏まえた適切な運用の観点から検討することが必要である。

(3)検討の方向

・ 以上を踏まえ、待機合格者をできるだけ出さないようにするため、以下の方向で制度のあり方を考えることとする。

就職活動に支障が出ないよう、できるだけ早い時期での合格を促すとともに、早い時期に合格できない場合には、受験浪人を続けずに、まずは就職し、所要の実務経験を先に得るよう促す仕組みを備えた制度とすること

② 監査業界や経済界等で働きながら、受験や合格後の実務補習の受講ができるよう、資格取得がしやすい制度とすること

 

資料4

「公認会計士制度に関する懇談会」中間報告書に関する意見募集の
概要について

(1)試験制度の見直し関係

・ 企業に一定の会計の専門的識見を有する者を配することを目指した制度設計の方向性は適当。

・ 平成18年から新試験制度に移行されて間もないのに、制度変更すると混乱を与えるのではないか。

・ 合格者数の適正化により待機合格者問題は解決できるため、試験制度の改正は不要ではないか。

資格試験は就職試験ではなく、試験の合格者数と就職の需給のギャップは当然生じうるものであり、試験制度の改正は不要ではないか。

社会人合格者が増えないのは、新卒一括採用や転職の困難さなどの雇用慣行等が原因であり、試験・資格制度が原因ではないのではないか。

試験制度の複雑化や安易な科目合格制度の拡大は資格の価値・魅力を減じてしまうのではないか。

早期の就職を促そうとすると大学教育が軽視され、受験予備校での受験勉強の専念が一層進むのではないか。

・ 科目合格等の有効期間は、最近の会計・監査環境等の変化に鑑みると、10年

は長すぎる。5年程度が適当ではないか。

大学卒業を公認会計士の資格取得要件とすべきではないか

・ 2段階目試験について、認証された会計大学院の修了者・修了見込者には、客観的な実力判定試験合格を条件として試験の全科目を免除すべきではないか。

・ 3段階目試験は、国家試験若しくは国家試験として運営を日本公認会計士協会に委託するものとすべきではないか。

3段階目試験の受験要件として、大学等での会計関係の一定の単位を含む合計150単位の取得を求めるべきではないか。

(2)「監査証明業務は行わない会計のプロフェショナル」に係る資格制度関係

・ 企業に一定の会計の専門的識見を有する者を配することを目指した制度設計の方向性は適当(再掲)。

・ 企業内の実務家の育成には公認会計士試験では負担が重たいのではないか。負担の軽い能力認定を設ければ十分ではないか。

・ 企業内において会計のプロであることを証明する資格があれば、モチベーションの向上にもつながるのではないか。

公認会計士試験合格をもって「公認会計士」と名乗れるようにすべきではないか。

財務会計士の創設は、待機合格者への対症療法にすぎないのではないか。

・ 受験者の一般企業へ就職は厳しく、財務会計士資格を新たに設けても待機合格者は減少しないのではないか。

財務会計士になるために実務経験を課すのであれば就職問題の解決にはならないのではないか。

・ 財務会計士には独占業務がなく、その位置づけが不明確ではないか。

受験生は公認会計士になりたいのであって、財務会計士になりたいわけではないのではないか。

・ 「財務会計士」の名称は、「会計士」と略称される可能性があること、公認会計士その他の資格との混同による混乱が懸念されること等から、名称については慎重に検討すべきではないか。「准会計士」等の名称が適当ではないか。

・ 公認会計士や財務会計士は会計のプロの一類型であることから、資格の種類で上下関係があると誤解されないよう配慮・工夫が必要ではないか。

・ 財務会計士は監査法人に就職できなかった者のための下位の資格と思われるのではないか。

・ 財務会計士の資格を創設するにあたっては、既存の会計関連資格との関係に十分配慮すべきではないか。

・ 財務会計士は税務業務は行えないことを明確にすべきではないか。

・ 企業に財務会計士の設置(雇用)を義務付けるべきではないか。

・ 企業内の財務会計士の情報を開示することで、財務情報の信頼性向上に寄与するのではないか。

・ 合格者の経済界での採用を促すための対策は必要であるが、企業における人材の採用は自主的な取組みに委ねるべきであり、実質的な強制とならないようにすべきではないか。

・ 外部監査人である公認会計士と企業内実務家等を念頭に置く財務会計士は利害が対立する関係にあり、財務会計士の登録・管理を日本公認会計士が行うことは不適当ではないか。

・ 財務会計士は独占業務がないことから、監査補助業務に就く場合のみCPEを求めればよいのではないか。

(3)合格者数について

合格者数の適正化により待機合格者問題は解決できるため、試験制度の改正は不要ではないか(再掲)。

・ 平成19年・平成20年の合格者数の急増は大きな問題。監査業界等の需要をしっかり把握した上で合格者数を決めるべきではないか。

・ 現行試験制度への改正により問題が生じており、旧試験制度に戻し、合格者数を減少させるべきではないか。

・ 合格者の増加により、公認会計士の質が落ちているのではないか。

・ 現在の受験生は合格者を増やすとの方針を受けて受験勉強を開始したので、安易に合格者数を減少させるべきではないのではないか。

(4)その他

公認会計士の資格取得には実務経験が必要となっており、実務経験の確保を国や監査業界が実施すべきではないか。

・ 適正な人数で十分な採用活動が行えるよう、監査法人への就職活動は合格発表後にすべきではないか。

実務補習が一般企業への就職を阻害する要因となっているため、実務補習は廃止すべきではないか。

・ 監査法人の業務範囲を見直すべきではないか。

・ 監査法人に税務申告代理業務を認めるべきではないか。また、公認会計士の業務に税務業務を追加すべきではないか。

・ 公認会計士への税理士資格の自動付与は廃止すべきではないか。

・ 虚偽証明に関する公認会計士に対する調査は、日本公認会計士協会に権限を付与して自主規制の強化を図るべきではないか。

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