不作為の因果関係(刑法1百選4)

23 11月

概要

 暴力団構成員が少女A(13歳)に覚せい剤を前日から少なくとも3回注射し、覚せい剤による錯乱状態にAは陥り、独力では正常な起居動作をなしえないほどの重篤な状態に陥った(午前1時40分)。

 Aを放置し立ち去り(午前2時15分ころ)、午前4時ころまでにAは、急性心不全のため死亡した。

 被告人は、保護責任者遺棄致死罪(刑法219条)等で起訴された。

 

論点

 不作為の場合の結果回避可能性の蓋然性判断

 期待された作為が行われたなら結果が生じなかったであろう場合、どの程度に結果不発生が見込まれれば因果関係を肯定してよいか。

 

判例

 「十中八九Aの救命が可能」であり、「Aの救命は合理的な疑いを超える程度に確実であった」ので、因果関係があると認めるに相当。

 

私見

 不作為による因果関係は、確率的判断である以上、一方の可能性を完全に排除することはできない。

 また、因果関係の認定においても「疑わしきは被告人の利益に」という考えの下、結果不発生の可能性がある(因果関係がないことはない)というだけでは不十分である。

 よって、不作為の因果関係は判例と同様、「十中八九」という程度以上に確実な因果関係がなければならないと考えられる。

 覚せい剤発覚を恐れ、救急医療の要請をせず(不作為)、救急医療を受けたならば救命できた可能性は高く、少なくとも延命はできた(高い蓋然性)。

 不作為とAの死亡には因果関係があるといえる。


刑法204条

 「人の身体を傷害した者は、十五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。」

刑法205条

 「身体を傷害し、よって人を死亡させた者は、三年以上の有期懲役に処する。」

刑法217条

 「老年、幼年、身体障害又は疾病のために扶助を必要とするものを遺棄した者は、一年以下の懲役に処する。」

刑法218条

 「老年者、幼年者、身体障害者又は病者を保護する責任のある者がこれらの者を遺棄し、又はその生存に必要な保護をしなかったときは、三ヶ月以上五年以下の懲役に処する。」

刑法219条

 「前二条の罪を犯し、よって人を死傷させた者は、障害の罪と比較して、重い刑に処断する。」

 

不作為

 不作為とは、何もしないことではなく、「期待された作為を行わないこと」を意味する。

 本事例の起居できないほどの重篤な状態に陥った者がいた場合、救急医療の要請をすることが居合わせた者に期待される。「急救急医療の要請(期待された作為)をしないこと」が不作為にあたる。

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